第25回JPSTSS学会学術集会の開催にあたって

 第25回の本学会をお世話させて頂きます東京都立神経病院 脳神経外科の谷口 真です。創立から4半世紀の節目になり、そろそろ本会の運営メンバーも世代交代に入りつつありますが、創立メンバーのおひとりであり、現理事長の熊野 潔先生が、当初に掲げられたこの学会の3本の大きな柱「世界同時進行」「整形外科と脳神経外科の情報交換」「所属施設にとらわれない個人レベルでの参加・自由な意見交換」という特色は、この会に強烈な個性を与えて今なお色褪せていないと思っております。昨今の経済事情もあり、他の多くの学会・研究会が、その目指すところの希薄さ故に、参加者を失い、また運営資金も減少して継続が難しくなってきていますが、本会は、これからもその強烈な個性で参加者を引きつけてその命脈を保ち続けるであろうと確信しております。

 本学会の将来に祈りをこめて今回はメインテーマを「融合」とさせていただきました。インターネットの普及とともに情報の発信・収集・交換は急速に容易になりつつありますが、それでも世界と日本からの、また整形外科と脳神経外科からの参加者が一堂に会して同じ空気を吸い、肉声で語り合うことの重要さは失われていません。志を同じにする人達が一つの場所で「融合」する事こそ、何か新しいことを生み出していく重要な基礎土壌であります。

 今回は、シンポジウムとして、そろそろ日本でも使用可能になる「頚椎人工椎間板」についてその概略・現在までの臨床成績などの情報を共有します。また、この事と無縁ではないもうひとつのテーマとして「新技術の臨床導入」プロセスそのものを取り上げました。本会は脊椎インスツルメンテーションの手術技術向上に主眼を置いた学会であり、新しいアプローチ法・機器などの新技術と密接な関係にあります。一つの新技術が臨床現場に導入され、しっかりと根付き、多数の患者さんの幸福に貢献するようになるまでには数多くのステップがあります。誰が処方箋を書いても量さえ適切なら結果が同じになる新薬と違い、手術の場合は、それを行うのに必ず外科医の手を必要とします。残念ながら、どんな外科にもラーニングカーブが存在しており、たとえどんなに周到な事前準備をしても新技術の導入当初から全てが満点にはなりにくいのもまた事実です。他国で既に市場にある製品の導入にせよ、本邦で独自に開発した製品にせよ、従来は、医師個々人の倫理観・自律学習に大きく依存していたその導入プロセスが、現在は徐々に管理の下に置かれつつあります。しかし、そもそもどうすれば誰もが納得出来る導入の仕組みが出来るのかについてまだ完全な答えは出ていないように思います。行政が最終的判断を行うというのが基本ですが、内容によっては、学会にガイドラインの作成を依頼し、学会はプロフェッショナルオートノミーの観点からこれを準備、行政がこれを業界に指導して遵守させるという事がしばしばあります。しかし、個々の製品の導入にあたりどの程度のハードルを課するかを決める意志の所在がどこにあるかが今ひとつ明確ではありません。また、理想主義に走りいたずらに高い導入障壁を課せば本来その恩恵を受けるはずの患者さん達が置き去りになります。一方で、これを著しく低く設定するとおこる危険は、つい最近脊椎インスツルメンテーションの領域で発生した看過できない重大事故からあきらかです。新技術の導入にあたり行政・学会・業界・そして医師個々人が現状ではどのような役割をはたしており、今後それがどう変わる必要があるのかについて一度考えてみる事は無駄では無いと思います。また、新技術の導入途上に発生した不幸な有害事象について当事者になる医師個々人が負うことになる責任の範囲についても法曹界から御意見を賜ろうと思っております。

 さて、先述した通り本会は脊椎インスツルメンテーションの手術技術向上に主眼を置いた学会ですが、戦争が戦略と戦術の両方を必要とするように、手術も最後に行き着くところは「どのような患者さんの、どのような問題点に、どういう手術を提供するのが一番良いサービスか」という戦略の立て方です。戦略面の考察無しに方法論だけを議論しても片手落ちです。今回の主題「困難な症例への挑戦」では、脊椎インスツルメンテーションの世界で現在みんなが共有している問題、例えば骨粗鬆症に伴う脊柱変形をどうするか、パーキンソン病の脊柱変形のように中枢要因で脊柱バランスが崩れてしまった人達をどうするか等々、治療戦略に関する議論を抜きにしては答えの出ない問題を取り上げます。あらかじめこの様な問題の代表的症例をホームページ上で提示し、皆様からの治療の御提案をいただき議論しようと思います。この機会だけで全員が納得する結論が生まれるとは期待していませんが、おそらく皆様のアイデアを集めて相互に討論することで、参加・聴講したそれぞれの先生の頭の中に自分なりの治療戦略のイメージがうまれてくるのではないかと思っております。そして、これもまた「融合」の一型であろうかと思います。

 また、学会の周辺企画として整形外科の先生方にはやや目新しい、顕微鏡下での手術用ドリル実習セミナーを予定しています。90年代に脳神経外科の領域は手術用ドリルの進歩とともに頭蓋底領域に拡大し、安全なドリリングテクニックを身につけることで、頭蓋骨の中に埋まっていて外から見えない重要構造物を避けて頭蓋底の深部病変にアプローチする事が可能となりました。従来は大脳を牽引して無理矢理のぞき込んでいた深部の景色を、視野を遮っている頭蓋底の骨を削ることで脳に負担をかけることなく見ることが出来る様になったわけです。もちろんこのためには、顕微鏡の下でのドリリングテクニックを身につける必要がありましたが、そのテクニックの基本は脊椎外科でも応用が可能です。脳神経外科出身の会長として、整形外科の特に若い先生方に向けて、安全な手術のためのノウハウを情報発信したいと言う意図を込めて企画させていただきました。

 この他にも多くの主題を設定させていただきましたが、主題に限らず脊椎・脊髄神経手術手技に関する広い話題の応募をお待ちしております。今回の会場となります砂防会館(シェーンバッハ・サボー)は、別にそれを意図して選んだわけではありませんが、江戸城の外堀のすぐ内側にあり、徳川直属の御家人、譜代・親藩・御三家の屋敷が建ち並んでいた場所でした。また、すぐ前の坂を下って赤坂に出ればそこには町人の家々・外様大名の屋敷があり、いわば当時江戸に全国から集まった多様な文化のるつぼだった場所です。またその後も昭和期にはこの砂防会館に自民党の党本部があり、戦後政治にかかわった全国からの多くの代議士が行き交った場所でもあります。この意味でも今回の「融合」というテーマにふさわしい場所と思っております。平成30年9月14,15日、この場所で皆様とお目にかかれるのを楽しみにしております。奮って御参加下さい。

 

平成29年10月
第25回日本脊椎・脊髄神経手術手技学会 (JPSTSS学会)
会長 谷口 真 (東京都立神経病院 脳神経外科)