JPSTSS 一般社団法人 日本脊椎・脊髄手術手技学会

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Overseas conference reports【EUROSPINE 2022】

EUROSPINE 2022参加報告
EUROSPINE Annual Meeting 2022の参加報告です。

変わらぬもの、変わりゆくもの 手稲渓仁会病院整形外科脊椎脊髄センター 青山 剛

 JPSTSS会員の皆様、こんにちは。本年(2022年)10月19日から21日にイタリアのミラノで開催されましたEUROSPINE Annual Meetingに参加して参りました。Meeting自体は2020年がウィーン改めバーチャル、2021年がヨーテボリ(スウェーデン)改めハイブリッド(現地開催はウィーン)と途絶えることなく開催されていたのですが、今回は3年ぶりの現地メイン開催となりました。3年前にヘルシンキで参加した時とはパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻と大きく情勢が異なりました。学会の様子、そして参加するにあたり気になる旅程について御報告いたします。

 新型コロナウイルスが変異を繰り返し、その度に性質を変え、欧州の人々のウイルスへの認識も同時に変化してきたものと思われます。今年は抄録募集の時から、オンサイトで実施すると宣言していました。 学会会場はAllianz MiCo Milano Convention Centre、街の中心からはメトロで30分ほどにある大きな施設に3400人近くの参加者が集まりました。11年前のEUROSPINEもこの会場でしたが、当時は工事中であり、大変きれいな施設に変貌しておりました。

青山 剛

【左】会場のAllianz MiCo Milano Convention Centre 【右】学会場入り口から見た高層ビル

 Registrationでバッジを受け取り会場内へと進むと巨大な器械展示場が目に入り、そこはコロナ前と変わらない風景でした。

青山 剛

展示場風景

 講演も広い会場に多くの参加者が集まり、やはり以前と同様の雰囲気を感じました。演題内容についても報告します。プログラムは外傷・腫瘍、変性疾患、脊柱変形、そして合併症、疫学、基礎まで脊椎脊髄疾患の幅広い領域をカバーしています。並行して開催されているセッションは最大2列であり、聞きたい演題が複数あり選択に困ることは少ないです。選りすぐりの演題をバランスよく組んでいるプログラムが、本学会の優れている点だと感じております。自分自身が参加したのは、今回は2日目、3日目のみでしたが、その中で最も印象に残っているのは学会長の講演(Presidential Address: Through The Language Glass: How Words Colour Your (Spine) World)でした。脊椎外科医は政治家、患者、同僚と話をする、そして例えば筋骨格系疾患は生命に関わらないので政策で重要視されなかったり、ADL評価スケールでの車の運転可否は途上国では評価項目になり得なかったり、医療圏の広さ、医師数の差異からある国では可能なことが他の国では非現実的であったりなど、何かを話す時には必ずしも同じ土台ではない、だからこそglobal communityで集まり、違いを理解しつつ共通の言葉を話そう、”spineish”をと力説していました(写真下左)。講演の終盤で世界各地域からの参加者が呼びかけに応じ壇上に並び(写真下右)、世界中に脊椎外科医という仲間がいるのだと改めて感じました。その中でもウクライナからの参加者はstanding ovationを受けていました。

青山 剛

 交流行事としては、二日目の夜にcongress eveningが、レオナルド・ダ・ヴィンチ記念国立科学技術博物館にて開催されました。

青山 剛

【左】Dinner前のカクテルパーティー【右】Dinner会場

 10年以上前から参加している先生であれば、特別な場所を貸し切って、演目を鑑賞しながらテーブルでコース料理をいただくgala dinnerの記憶をお持ちかと思います。最近は日本の学会での懇親会同様に食事を自分で取ってきて立食もしくは簡素なテーブルの形式であり、以前のようなgala dinnerではなくなりました。参加者が増え収容できる会場が無くなったのではないかと推測しています。しかしながら夜の博物館を貸し切り、飲みながら展示物を鑑賞し、深夜まで交流するという通常の入館では味わえない特別感は、今も残っています。

 3年ぶりに現地参加できたEUROSPINEですが、変わらない事ばかりではありません。今回のプログラムで大きな変化を感じたのは、各セッションでkeynoteまたはpanel discussionがあったことです。そして2つのセッションの同時実施が増えた代わりに4セッション同時、1演題3分ほどの発表というQuickFireという区分の口演が無くなっていました。おそらくkeynoteは一般応募ではないと思われます。すると今年は一般応募からは口演83題、e-poster 163題です。応募総数は公表されませんでしたが例年1000題ほどであり、2019年の口演69題、quickfire120題、e-poster115題に比べ狭き門となったと思われます。Debateの課題は、ロボット対ナビゲーションでした。日本ではまだロボットを持っている施設はほとんど皆無でしょうが、欧州ではこのようなセッションが開かれる程度にはなっております(といってもロボットに価格に見合うだけの価値があるかは疑問でしたが)。 機器展示場を眺めると、以前には見かけた椎体形成術の出典を目には入りませんでした。テリパラチドの普及とともに、すでに廃れつつある器械なのかもしれません。思い出せば、初めて参加した2007年には複数社で出していた腰椎の棘突起間スペーサーはすでにありません。 参加者は今年も多かったですが、やはりCOVID-19の影響は残っておりアジア諸国からの参加が少なかったです。国の規制が未だ厳しい中国人の現地参加は皆無で、韓国人もほとんど見かけなかったです。そのため当初は現地のみのはずだった学会はオンラインでの参加も可能となり、中国との共同セッション(そのようなものがあるのです)は中国からオンラインでの発表でした。

 このオンラインはパンデミックを契機に始まりましたが、今後永続的に続くかもしれません。EUROSPINEの会員総会での審議事項の一つに新しいmembershipが提案されました。EUROSPINE digitalというオンラインイベントのみ参加可能な会員資格です。これはもしかすると今後もオンライン学会を続ける布石かもしれないと思いました。なお以前は会員であることが栄誉であった本学会は、会員数を増やすことへと方針を変えております。日本からの新入会はありませんでしたが、本年も多数の新規会員を迎えました。目を引いたのはバングラディシュから20人余りが新入会したことでした。もし会員になりたい先生がいらっしゃいましたら、御相談ください。

 続いて、旅程についても述べさせていただきます。今回現地参加を見合わせた先生方が多かった理由の一つはCOVID-19の流行、さらにヨーロッパ行きはロシアとウクライナの戦争があったかと思います。 前者については、渡航準備の間にも目まぐるしく変化しました。本年初頭にはヨーロッパ入域にビザが必要(と思いましたがすでに不要となっていたかもしれません)、帰国便への搭乗時も現地の陰性証明が必要で運が悪ければ現地で長期間留置、という状況でした。しかし欧米の規制が急速に終了となるに従い日本も外圧で緩和すると予想していたら、結果的には欧州入域には全く規制はなく、帰国便は3回のワクチン接種証明のみとなっていました。

青山 剛

【左】グリーンランド上空,海岸線付近の機窓風景【右】スコットランド上空,*インバネスの街 **ネス湖

 後者は直行便であればロシア上空の飛行ができないため往路はアラスカ、北極、グリーンランド(写真上左)、イギリス(写真上右)と北回り、復路はバルカン半島、トルコ、中国、と南回りで世界一周の旅でした。しかし東南アジア、中東、トルコの航空会社を使えば、戦争の影響はない元のルートです。もっともこれらは元々遠回りで時間はかかるのですが。

 街の様子も日本とは全く異なります。フランクフルトから乗り継いだルフトハンザ便では、乗務員はマスクを着用していましたが、乗客ではほとんどいませんでした。EUROSPINEと同じ週の前半で開催されたEANS (European Association of Neurosurgery)にも参加したためセルビアの首都ベオグラードに滞在しましたが、マスクをしている人はほぼ皆無で、一部の気にする人(もしかすると体調が悪い人)くらいでした。学会のNetworking Dinnerでは大人数で深夜まで飲んで、踊ってという状況です。ミラノではパンデミックの初期に死者が多数出た記憶が残っているためかラッシュアワーのメトロでは1−2割の人がマスクをしていましたが、賑わう観光名所の風景はコロナ前と同様でした。

青山 剛

【写真上段左】トラム内風景。マスクをしている乗客も一部いる。個人の裁量に任されており着用義務はない。
【写真上段右】Duomo前広場。観光客で混雑しているがマスクをしている人はほとんどいない。
【写真下段】ナヴィリオ運河の風景

 すでにコロナウイルスの騒動は終わっているようでした。数々の問題点が明らかになりながらもそれを変えることなく、そしてすでに弱毒性となり多くの国で過剰な対策を終了したにも関わらず延々と同じことを無思考に続けるこの国がどれほど世界の標準から外れているかを肌で感じることができました。「ここは日本だから」と世界標準から外れていることを正当化する声がありますが、今の時代に世界と縁を切って生存できるわけもなく、そのような姿勢を続ければ世界から相手にされなくなるでしょう。

 以上、EUROSPINEに参加しての雑感を述べさせていただきました。来年は今年より海外へ出やすくなっているはずです。次回のEUROSPINE annual meetingは2023年10月4日から6日にドイツのフランクフルト(マイン)にて開催されます。10月のドイツといえば、ミュンヘンで開催されるビールの祭典オクトーバーフェストです。実は「オクトーバー」といっても最終日が10月の第一日曜日でほぼ9月の祭なのです。来年の第一日曜日は10月1日で、ミュンヘンで祭典を楽しんでからフランクフルトへ向かうのも良いと思います。ぜひ来年、フランクフルトに集合しましょう。

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