第7回欧州手術見学ツアーレポート❻
2019年10月14日~10月18日に実施した第7回欧州手術見学ツアーを参加者8名がレポートいたします。
EUROSPINE 2019参加報告記 手稲渓仁会病院 整形外科脊椎脊髄センター 青山 剛
JPSTSS主催の手術見学ツアー、付随するIGASSミーティングは例年EUROSPINEの開催地に合わせて行われます。手術見学ツアーに参加していない私がなぜこの場で報告を?と思う方もいらっしゃるとは思いますが、IGASSの行事に参加した分の仕事を求められたと考え報告をさせていただきます。
●EUROSPINE・Pre-day cours レポート
【写真左】会場のMessukeskus、前日の光景。前日に参加証を受け取れば、初日午前の混雑を避けることができます。
【写真右】会場のplenary hall。Local hostsによる開会挨拶の様子です。
本年のEUROSPINEはフィンランドの首都ヘルシンキにて10月16日−18日、そしてPre-day courseが10月17日の会期で行われました。会場はMessukeskus Helsinkiであり、ヘルシンキ中央駅から近郊電車で1駅、5分程度のPasila(スウェーデン語でBöleと併記)駅からさらに徒歩5分程度と交通便利な場所でした。フィンランドは過去に650年間のスウェーデン領であったためか、街の雰囲気はストックホルムと似ていました。そしてフィンランド語とともにスウェーデン語も公用語であるため地名までスウェーデン語と併記されており、私にとっては大変馴染みのある感じでした。
【写真左】ヘルシンキの街中の風景Svenska theaternはスウェーデン語で、英語のSwedish theaterです。
昨年20周年を迎えた本学会はかなり大規模な学術集会へと発展し、本年の参加者は総計で3433名、うち一般参加が2039名、企業関係者が1394名でありました。それでも拡大し続けられるものではなく、参加者数は2018年(総数3701、一般2123/企業関係1578、以下同様)、2017年(3684、2331/1353)、2016年(3629、 2246/1383)と安定期に入っております。
プログラムは基礎から臨床、画像診断から手術、高位は頭蓋頚椎移行部から仙腸骨まで、疾患は変性、外傷、腫瘍、感染などと、脊椎疾患全般にわたりバランスよく構成されています。演題はoral(plenary hallにて行われます)69題、quick fire(同時刻に複数の部屋で行われる発表時間の短い口演であり、日本で普通に行われる形式です)120題、e-poster115題の計304題であり、これらは1000題近い応募からの低い採択率を通過したものでした。それらに加えてdebateが2テーマ、Eurospineおよび企業によるランチシンポジウム、そして特別講演・文化講演という構成でした。そして機器展示は広大な会場で行われており、日本では見ることのない企業も多数、そして機器の展示もありました。
参加者は世界各国からきますが、上位10ケ国はメキシコ149名、スペイン105名、中国96名、イギリス96名、タイ84名、ドイツ81名、イタリア78名、フィンランド76名、ロシア69名、ベルギー62名でした。例年開催国からの参加者数は多いですが、メキシコ、中国、タイからの参加者数には驚かされます。中国は採択演題数も20と多いですが、日本も16という数の割に参加者が少ないです。参加者数第5位のタイは3題、トップのメキシコに至っては採択演題数が0でした。最近の日本の若者の傾向として海外へ出たがらない、内向き思考が問題とされていますが、今後は避けられない世界各国との競争のためには積極的に海外へ出ることが必要だと感じてしまいます。
【写真右】中国人御一行様の記念撮影風景です。
●参加後の感想
次に個人的に印象に残ったことを述べさせていただきます。
Debateの一つはロボットが脊椎外科医にとって代わるか(それも2030年までに!)というテーマでした。夢のような話ですが、技術は加速度的に進歩します。多くの分野で機械化が進み、かつ手作業よりも早くて正確です。意外と脊椎手術でもそのような時代が早く到来するかもしれません。個人的には手術をしてくれるロボットよりも冗長な患者の話を医学的に理路整然とした文章にしてくれる翻訳機の方が早く世の中に現れて欲しいですが。
一般演題で印象に残っているものでは、type2の歯突起骨折で骨癒合が必ずしも治療の目標ではないという発表、そしてムチ打ち外傷の転帰不良因子として椎間関節の変性を示している発表がありました。手術手技に偏ることなく日常診療で遭遇するような題材に関する演題が多くあるのが、本学会の良い点です。
機器展示では、最先端のものとして上述のロボットがありました。といってもまだ外科医に置き換わるには至らないものですが。そして経皮的に頚椎の椎間関節にケージを挿入し固定するという、日本では見たことがないような機器へも興味を持ちました。ただ私が初めてEurospineに参加した2007年を思い出せば、腰椎の棘突起間スペーサーが複数、さらにはそれを経皮的に挿入するというものまでありましたが、今ではほとんど目にすることはありません。またBKPは残ってはいるものの、一時期よりは減りました。椎体をバルーンで膨らませる際に同時にステントを留置しそのステント内にセメントを注入するという機器も、いつの間にかなくなりました。医療機器はある程度の臨床試験が行われてから世に出てくるはずなのですが、臨床医学はそれ自体が実験でもあるのだと実感します。今度はどの機器が消えていくのでしょうか…欧州の会社が多いのは当然ですが、中国、台湾、韓国企業の出展もありました。欧州への売り込みも目指しているのかもしれませんが、意外と自国からの参加者への売り込みも目的かもしれません。日本企業の出展はほとんどなく、もっと海外へ出て欲しいと感じました。
【写真上】Congress evening会場のKellohalli。通常は昼間だけの営業で、学会貸切です。
参加者同士の交流の場として、2日目の夜にcongress eveningが開催されました。今年はKellohalliという場所で、ガイドブックによれば食肉処理場であった建物を再開発し、市場としています。一般営業が終了した夜間に貸し切り、パーティーを行いました。この行事、以前はgala dinnerという名前がいつの間にか変わりました。そして形式も以前の特別感あるディナーからカジュアルな雰囲気となってしまいました。そのせいかはわかりませんが、今年は日本人参加者が少なかったようです(知る限り自分を含めて3名でした)。海外学会は実は日本人同士の関係を作るきっかけとなりやすいので、学会に参加したらこのような行事にも参加することを勧めはします。
【写真左】旧市街の展望台より望むタリン港。旅行ガイド、パンフレットでは晴天の風景が掲載されています。本学会期間中はほぼ寒い曇りないし雨の日々でした。【写真右】KGB prison cells。旧市街のビルにあったKGB収容所跡の資料館です。
本学会期間中はほぼ寒い曇りないし雨の日々でした。とはいいつつも、観光も海外学会の楽しみの一つではあります。ヘルシンキからは2時間ほどの乗船で対岸にあるエストニアの首都タリンに着きます。1991年まではソビエト連邦の一国であったエストニアは現在EU、シェンゲン協定内であり、ビザも不要で気軽に訪問できます。計画的だった先生方、突然思い立った先生方とも、そちらでの交流を行ったのかもしれません。
そして実はロシアのサンクトペテルブルク(レニングラードという方が通じる世代の先生もいらっしゃるようです)へも列車で3時間半程度で到着できます。ただしロシアはビザが必要でかつ日本で取得していかなければならないため、訪問した先生方は周到な用意をしていらっしゃったことと思います。
【写真右】ロシアのサンクトペテルブルクのレーニン像です。
●今後の開催予定
冒頭のように3000人を超える参加者に対応できる会場が必要となり、開催地は大都市に限られてしまいました。2024年はまだ決定していませんが、general assemblyではコペンハーゲンの名前が挙げられていました。2023年までの開催は以下の通りです。JPSTSSの会員の先生方も多数参加し、中国の方々と同じように会場前で記念撮影ができることを期待しています。
・2020年10月07日-10月09日 ウィーン(オーストリア)
・2021年10月13日-10月15日 ヨーテボリ(スウェーデン)
・2022年10月10日-10月14日 ミラノ(イタリア)
・2023年10月04日-10月06日 フランクフルト マイン(ドイツ)
第7回参加者8名からのレポート
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Foreword
山崎 昭義 -
Report-1
齊木 文子 -
Report-2
和田 圭司 -
Report-3
和泉 智博 -
Report-4
半井 宏侑 -
Report-5
熊野 洋 -
Report-6
青山 剛 -
Afterword
熊野 潔